子どもの喪失


【子どもたちが経験する”喪失”と向き合うこととは】

ケースワーカーからのお話

人は生まれてから亡くなるまでの間にさまざまな出会いと別れを体験して人生を送ります。

子どもにとっては特につらい別れに遭遇することも少なからずあり、それが後の人生に深い影響を及ぼすこともあります。

「子どもの喪失と悲しみを癒すガイド~生きること・失うこと」(リンダ・ゴールドマン著,天貝由美子訳 創元社)は子どもが出会う悲しみとその癒やしについて書かれています。

内容は

第1章「子どもたちの喪失と悲しみ」
第2章「悲しみの神話」

第3章「悲しみを乗り越える4つの心理学的課題」
第4章「悲しみを乗り越える方法」
第5章「さよならを言うための準備」
第6章「教育者のために」
第7章「地域での助け合い」

です。

第1章の一部を紹介します。

「子ども時代に起こりうる喪失」として、

「関係性の喪失」
親、祖父母、兄弟姉妹、友達、クラスメート、ペットの死、教師、親が親の役割を果たさない(例えばアルコール依存、薬物、離婚、投獄)

「物の喪失」
お気に入りのおもちゃの喪失(毛布、おしゃぶり、ぬいぐるみなど、日記、特別な贈り物など)

「環境の喪失」
地震、火災、洪水、他の自然災害。引っ越し、転校、家族との離別

「自己の喪失」
体の一部の喪失、自己価値の喪失、虐待による自尊心の喪失

「スキルや能力の喪失」
病気、ケガ、落第、発達障害による他の人との違い、スポーツチームのメンバーに選ばれなかった

「習慣にしていたものを失う」
指しゃぶり、爪を噛む、食事のパターンや日常生活の変化、学校の始まりや終わり

「大人の世界による保護の喪失」
役割モデルの喪失、学習に対する意欲の喪失、問題解決としての暴力

が挙げられています。

それぞれについて、「子どものために何ができるか」が子どもの年齢や発達段階に応じてどのように理解し、支援をすればいいのかを具体的に例を挙げて解説されています。


第6章には以下の項目が述べられています。

「他の機関に子どもを紹介するためのガイドライン」
「子どもの喪失体験のチェックリスト~子どもをまるごと理解するために」
「専門家の援助を求める親へのガイド」

親や教師だけでは対応が難しい場合は専門家の介入が必要とされ、次のような状況が一つでも見られた場合は専門家に相談することがすすめられています。

☆何度も、喪失についての考えや感情を話すことを拒絶する
☆極端におとなにべたべたする
☆死について本当のことを聞かされていない
☆自分自身を傷つけると脅す
☆部活動に消極的になり、友達から離れてしまう
☆薬物やアルコールに依存するようになる
☆動物に対して残酷になったり、他の子どもたちの身体を傷つけようとする
☆子どもと亡くなった人との関係に問題があった
☆寝る時間や食べる量が極端に少なくなった
☆成績が悪くなった
☆急に説明できない変化を示すようになった


この本は、主に生徒が家族の死などに直面した場合の学校の教師が取るべきこどものサポートについて書かれたものです。

子どものグリーフ・ケアに関する本は他にもたくさん出版されており、児童福祉にかかわる人たちにとっても参考になると思われます。

社会的養護の子どもたちの喪失

社会的養護にかかわる施設の職員、里親、ファミリーホームの職員たちは日々子どもの喪失と向き合っているわけですが、日本では愛着障害や愛着形成については学んでも、子どもの喪失や悲嘆に関する研修はほとんど行われていないようです。

子どもの怒りや問題行動として見られる背景には、これまで積み重ねられた、解決されていないままのさまざまな喪失体験が心に沈殿したままになっている、とも考えられています。

特に家族から離れ、愛着の対象である親や保護者から突然離され、生活の基盤を失ってしまった子どもたちにとっては、新しい生活の場である施設や里親家庭で暮らすようになるという環境の激変は大変な衝撃です。

にもかかわらず、新しい環境に適応し、深い喪失を癒すプログラムがほとんどないに等しいというのは残念なことです。

アメリカでは里親になる人たちのための研修や里親向けの研修プログラムの中にかならず「喪失と離別」という科目があり、喪失を何度も繰り返している子どもの理解や支援について学ぶことが出来ます。

里親希望者のための研修テキストとしてアメリカの州で今も広く使用されている「PRIDE」から喪失に関する内容を少し紹介します。

離別、喪失、悲嘆は里親養育の一つの部分であり、里親になるということは、自分や自分の家族、とりわけ養育する子どもの喪失と向き合うことだと言ってもいいのです。

喪失には、「予期できる喪失」「予期できない喪失」の2種類があります。

予期できる喪失

どの人にも起こりえるものです。

したがっていろんな支援が受けられます。

「普通のこと」としてとらえられ、悲嘆を癒やすことも普通のことだと感じられます。

悔いはあるけれども、通常大きな罪や恥の意識はありません。

一般的に私たちの暮らしの中に心の準備が出来ています。

予期できない喪失

通常、どの人間にも平等に起こることではなく、乗り越える心の準備が出来ていません。

社会の理解や支援も多くはなく、しばしば自分を責めたり恥じたりします。

よくある普通の喪失とはみなされないため、癒しのプロセスをより複雑なものにします。

予期できる喪失はごく日常の暮らしの中で起こります。

たとえば、引っ越し、転校、クラス替え、転勤、中年になってくると自分の親がそのうちに亡くなることが予測できます。

予期出来ない喪失は、たとえばきょうだいや子どもの死、突然の病気や事故、災害による家屋や財産の喪失、健康や自尊心の喪失もあります。