8年間の交流を通して築いた絆


「仲良くしような」の声で表情が変わった

初めて家に来た日、施設側もボランティア里親が初めてだったこともあって、施設長はじめ大勢の職員が見送ってくれました。

帰る途中で、箸や茶碗を揃えるために、イオンモールに立ち寄り、駐車場に入った途端、彼が突然「なぜ自分が施設に入ることになったのか」について話し始めたんです。ものすごく悔しそうな口ぶりでした。

私は無責任な返事をするわけにはいかないと思いつつ、「そうか、そんなことがあったのか」と受け止めて聞いていました。彼はしゃべるだけしゃべったら、それ以後は全くその話には触れなくなりました。

買い物を済ませ、家に帰りました。家の中をひと通り案内しましたが、次男の部屋はまだ寝ていたのでとばしました。

居間に降りて話をしていたら次男が降りてきました。その途端、彼の顔が緊張で引きつっていました。
次男が「君か。また仲良くしような」と声をかけると、すごく嬉しそうな表情になりました。

次男が「バイトに行ってくるわ」と出かけると、彼は私の方を見て「優しそうやった」と安心した様子でした。

ゴーグルつけてタマネギを切った

その後、キャッチボールをしたり、料理を手伝ったりしました。施設では普段、でき上がったものを食べるので、調理するのを見ることがなかったようで、「ええ匂いや」と言ったり、台所に行って妻が料理するのを見ていました。

妻から「一緒にする?」と訊かれると「したい」と言って始めました。途中でタマネギを切っていたら目が痛いというので、水泳のゴーグルをつけてやりました。彼がゴーグルをつけて息を止めながらタマネギを切っているのを見て、おかしいと思いつつも新鮮な体験なんやなと思いました。

それから入浴したのですが、お風呂から出てくるなり「お風呂、狭いなあ」と言ったんです。

施設の風呂は大人数が一度に入れる旅館並の風呂ですから無理もないのでしょうが、私にもプライドがありますから「これは一般的な風呂より少し大きいぞ」と言うと「そうなんやあ」と言っていました。

その後はテレビを観て、寝ました。

翌日は、長男家族も加わって賑やかに遊んでいたのですが、「どこかに行くか?」と訊いても「別にいい」、「どんな感じ?」と訊くと「不思議な感じ」と答えるんです。

施設の生活では時間やすることが決まっているけど、うちの家では自分のしたいことが自由にできる。ゲームをするにしても、施設では交代しなければいけないけど、家では独占できる。

寝る時も夜更かししているので「そろそろ寝るように」と言うと「もったいなくて寝られない」という様子でした。

こたつが珍しかった

次の日に施設に送って行き、家での様子を話し、写真も何枚か見てもらいました。中でも、ゴーグルをつけて息を止めてタマネギを切る写真を見て一同大笑いになりました。

その後も何ヵ月かおきに出会っては「また今度な」と言って別れるという状態です。

ある時、運動会があるという連絡をいただいたので見に行ったんです。彼を見つけて手を振っても、そばによって肩をトントンとしても、全然反応しないんです。

後で「なんで返事してくれなかったん」と訊いたら「恥ずかしかったから」という答えでした。
「親代わりやからしても当然なんやで」と言うと「経験ないから、どう対応していいか分からない」と言うので、「親子やったら普通に手を振ったらええことや」と説明してやっと分かってくれたんです。

そんなところからのスタートでした。

彼の場合、うちに来て、特別どこかに行きたいということはなかったです。

家の近くで遊ぶとか、冬ならこたつに入って過ごすようなことでした。

施設にはこたつがなかったので珍しがって、うたた寝したり、お腹がへったらカップラーメンを食べたりするような、家庭の中で親子で自由に過ごす、そのことが一番嬉しそうでした。

8年間の交流を通して築いた絆” に対して1件のコメントがあります。

  1. 永田理恵 より:

    私も週末里親を希望しています。
    この記事を読んで、子どもにとって何気ない日常がとっても新鮮で楽しいことなんだと伝わってきました。

    いつか、わたしの所に子どもさんが来てくれるご縁ができたら、わたしもこんな風に一緒に過ごせたらと思いました。

    いろんな方のお話を聞いたり読んだりして、子どもがどんなことに戸惑ったり、不安を感じたり、喜んだり、安心するのか知っておくことは私自身の安心や心構えになりました。

    こうして体験を話してくださる先輩里親さんに感謝です。

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