8年間の交流を通して築いた絆


「息子さん」と言われたこと

ある年の正月前に迎えに行った時、ガソリンスタンドで待っているときにふと足元を見ると、とんでもない靴を履いていたんです。

靴の前は口を開けているし、横もボロボロでした。施設では年上の子のお下がりを使っているようなんです。
本人も言われて初めて「ホンマや」と言っていましたが、ひょっとしたら新しいのを買ってもらえると計算してたのかも分かりません…。

ところが上手い具合に隣が靴屋だったので、店に入って店員さんと話しつつ品選びしている時に「息子さんの場合は…」とか「子どもさんの足は…」と店員さんが言う度に、嬉しそうにニコッとするんですね。
彼の気持ちを知らされた瞬間でした。

この間に、長男家庭に赤ちゃんが誕生しました。その赤ちゃんを彼が受け入れてくれるか心配していたんですが、抱っこして「めっちゃ可愛いやん」と言いました。
彼の家庭に何があって施設に入ったのか詳細は知らされてはいませんが、自然に受け入れてくれました。

次に次男が就職することになり、勤務地が名古屋だったんです。彼は次男と一番仲が良く、どこへ行くのにもついていくような関係だったんです。

就職の話を聞いた彼は「えーっ、ずっと家でバイトしてたらええやん」と言ったんです。これに対しては「将来、家庭を持って生活するために、仕事に就く事は大切なこと」だと話をしました。

将来の夢を語り始めた

昨年、私の父が亡くなりました。それ以前にも何回か実家には行ったことがありましたが、父も母も可愛がってくれていました。

父が亡くなる二週間前に彼と一緒に見舞いに行きました。彼にとっては高校受験の前だったんですが、その時、父がどこからそんな大きな声が出るのかと思うくらいのしっかりした声で「絶対がんばるんやぞ。何が何でも合格しろよ。お父さんに恥かかせたらダメやぞ」と叱咤激励したんです。本人も「絶対がんばるから、大丈夫」と答えていました。

そのわずか二週間後に父は他界したんです。連絡の電話をすると、冷静に「おじいちゃん、死んじゃったんや」とだけ言いました。

彼の進路については、高校卒業後の自立を考えて就職しやすいところを選択しました。何の因果か、その高校は私も長男も同じ高校だったのです。私たちと違うのは、彼は成績優秀で将来の青写真も描いて頑張っている姿には、こちらの方が頭が下がる思いです。

施設では将来の希望や夢の話はしたことがなかったそうですが、うちに来てラーメン好きなことが分かってから「ラーメン屋になるか」という話になり、そこから将来の夢を語るようになりました。

次にサッカーも好きだと言うんです。「なんや、阪神とちがうんか」と私は返したんですが、彼は「Jリーガーになって、おっちゃんにマンション買うたるわ」と言ったので「ほな、頼むで」というようなやり取りをしたこともありました。

こんな話を聞いて、施設の職員さんは夢を語る彼の姿に驚いておられました。

これからもずっと付き合っていきたい

私は5年前に病気をしまして、医者からは会社を辞めた方がいいと言われたのですが、なんとか来年まで勤めて退職するつもりです。

そういう不安もあって、今後続けていけるかどうか施設と相談したところ、施設からは「彼にとって良い状況を築けているので是非とも続けて欲しい」と言われました。

本人には「迎えに行って送っていくことができなくなるかも知れないし、今までと同じようにはできないかも…」と話したところ、「それでも僕は行く。行くところがあることが嬉しい」と言ってくれました。

私も腹をくくって「君の実家になってやるから、何かあったらいつでも来ていいよ」と言いました。それからは、行き帰りもバスと電車を乗り継いで一人で来ています。これが自立につながるものと思っています。

彼と出会ってから8年間、優しい心、思いやる心を身につけてくれたと思っています。健康上の不安もあるのですが、私は一旦関わったからには、最後までつきあっていこうと考えていますし、会場の皆さんにもそうあって欲しいと願っています。

8年間の交流を通して築いた絆” に対して1件のコメントがあります。

  1. 永田理恵 より:

    私も週末里親を希望しています。
    この記事を読んで、子どもにとって何気ない日常がとっても新鮮で楽しいことなんだと伝わってきました。

    いつか、わたしの所に子どもさんが来てくれるご縁ができたら、わたしもこんな風に一緒に過ごせたらと思いました。

    いろんな方のお話を聞いたり読んだりして、子どもがどんなことに戸惑ったり、不安を感じたり、喜んだり、安心するのか知っておくことは私自身の安心や心構えになりました。

    こうして体験を話してくださる先輩里親さんに感謝です。

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