ふつうの子育てと一緒


目標をもつことの大切さ

一方その頃、私の仕事の関係で彼女を託児所に連れて行っていたのですが、そこで小さな子どもに上手く対応しているので「保育士に向いているよ」と言うと、私の仕事を見ていたこともあったのか、それから彼女も「進路は保育士に」と決めました。

そして高校も保育士コースに合格しました。

高校に進学後は、勉強も1人でするようになり、提出物もきちんと出すようになりました。「すごいなあ、目的がはっきりすると人間は持っている力を発揮するんだな」と思いました。

後日、ある研修会で人間の脳のクセについての話題があり、講師の先生からリポートを「出さない子」と「出せない子」がいるということを聞いて、この子は怠けて「出さなかった」のではなく「出せなかった」んだと分かったのです。

目的がはっきりすると、保育士検定試験の2級も合格しました。これは結構ハードルが高くて、私も一緒になってピアノの練習をしたり折り紙を折ったりして、試験に向けて取り組みました。

子どもの未来を考えて

私が子育ての中で大事にしてきたことは、将来一人立ちをするということを考えて、そのためにはどんな力が必要なのかを考えてきたことです。

1つは学校を休ませないことでした。熱を出しても、朝、点滴をしてもらったら昼から登校するというように、今時めずらしいくらい徹底しました。心の面で大事にしてきたことは、相手の気持ちを考えられる、やさしい心をもつことです。

他には、一対一の対応です。その当時の施設では何十人の子どもを数人の職員が世話していました。そんな環境で自分の話をじっくり聞いてもらうことは難しいですよね。だから家庭では1人にしっかり向き合うようにしました。

施設では幼児の場合、危険を避けるために幼児の手が届かないところに物を置いていたようで、うちに来ると何でも口に入れる子がいました。

また、「何が食べたい?」と尋ねても「何でもいい」と答える子もいました。施設では集団食中毒を避けるためか、生ものが食卓にのることは少ないようで、偏食気味でした。

今の制度では児童福祉の対象は18歳までです(注:20歳まで延長、22歳まで支援可能)。
その年齢で一人立ちするのは困難です。そんな子たちにとって里親は実家としての役割をもつことが必要だと思っています。

ふつうの子育てと一緒

里親に対して「自分の子でも大変なのに、えらいね」と言われることがよくあるんですが、私は一般家庭の子どもでも、里子でも違いはないと思っています。一緒に生活すれば同じですよ。

例えば、お金を盗られることです。私たちもボーッとしていてお金を持ち出されたことがあって、ある人に相談したんです。そしたら「そんなん当たり前やん」と笑われ、里親家庭だからではなく一般家庭でもある話なのだと知って安心したことがあります。

その時は上の子から「一芝居して脅したら」と言われ、お父さんが「警察に行こう」と手を引っ張ると、「ゴメンなさい」と泣いて謝りました。一人一人その子その子に合ったやり方があるということも分かりました。

いま子どもたちはみんなやさしい子たちに育ってくれているので、もう横道にそれないようにコントロールしていくだけです。

一般の家庭の子育てでもいろいろなことがあります。先ほどの「ものを盗る」だったり、「友達を傷つけてしまう」だったり。

そうした何かがあったときに報告してくれるということが一番大切かなと思っています。

だから里親養育も本当に普通の子育てと変わらないと思っています。

 

【2019年11月23日開催 第30回 里親制度をすすめるための講演】
「いろいろあってこそ、家族」
(はーもにい第135号より)

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