他人と違うところが僕の自慢や


都合の悪いことは記憶から消えて

聞き手
家族になったときのことなんかは、全く覚えてないの?

たかお
全然覚えてないんですよ。人間の記憶ほんまよくできてましてね。なんか都合悪かったんでしょうね。忘却の彼方に消してますね。

聞き手
子どもの時に、お父さんお母さんが自分に関わってくれたことで、印象に残ってることとかある?

たかお
親から聞くんですけどね、「あんたは転び方も知らなかったから転び方まで教えなあかんかったんや」って言われた。

聞き手
どういう意味?

たかお
こかされたときに顔面からこけたんですよ。
それを見たうちの親が「この子にちゃんと、前に手をつく転け方を教えたらな。」と思った。僕は直立のままガーンと倒れたんですって。
それから毎晩、布団の上で倒れる練習をさせられたらしい。

聞き手
子どもの時からお父さんとお母さんは好きやった?

たかお
親が嫌いということは全くなかったですね。ケンカして憎たらしい親やなと思うたことはありましたけど。

そこで僕も考え方を変えて、それなら親にはばれないようにしようと。それがちょうど中学生で、勉強せえ勉強せえと言われた頃です。
私学に行って、親に勉強してる、勉強してるってだまして勉強せずにね。

そういう意味では、人生経験というか人との接し方は高校の時にいろいろ学びましたね。

聞き手
家庭には何かイメージはある?

たかお
イメージがないのがイメージなんかなっていう気がしますけどね。今からイメージを持って壊れると嫌なんで、まあ何もないままで。
その時その時で判断して、なんか形づくんかなっていう感じですかね。

聞き手
こういうところはイヤっていうのも、あなたの中にはないんかな?

たかお
そうですね。今の段階でいろんな可能性を潰したくはないですから。いろんな選択肢があって当然やと思う。それを潰すと損した気分になる。

聞き手
理想の家庭像とかは?

たかお
持つと大変でしょ。追いかけないといけないから。(笑)

聞き手
戸籍謄本見せてもらったのはいつ頃?

たかお
学生の時に見せてもらったと思う。高校生だったかな。

そこに後見人は当時の児童相談所所長になっていた。「俺ってすごいやん。所長が後見人やで」って。そういうのがまた、自慢なんですよ。
僕の自慢の引き出しの一つに入ってる。

自慢話する時、僕は何も隠してないんです。未熟児だって話も保育器に入ってたいう話もします。
僕そんなことを隠すの大嫌いなんですよ。

聞き手
母子手帳見てるから生みの親の名前も既に知ってたんやね。

たかお
それを見てしまうとだめですね。品のあるような名前やったら、イメージ膨らむんやけど、僕の中でね。
そうでなかったから、親の名前は消えてるんですよ。記憶から消えてるって事は、自慢の種にならんていう判断なんですよ。

自分の立場を隠すのはおかしいのでは…

たかお
僕ねー、僕の中で、養子だ、里親だ、里子だっていうのを周囲の大人が回りくどく喋ってると、いらいらしてくるんですよ。
もうええやん、そんなんどうでもって。何を問題にしてるねんっていう思いがどうしてもある。

聞き手
あなたにはあなたの生き方があれば、他の人には他の人の生き方があるから、いろんな考え方や生き方を世間に知ってもらった方がいいと思う。

里子や養子を「かわいそうや」と思ってみる人も結構多いし、「苦労してるんじゃないか」って思っている人も多い。だからいろんな生き方があるよっていうことを知ってもらった方がいい。

以前、あなたは「里親が、自分のしていることに自信をもって欲しい。僕らは施設にいて、ここからお母さんが手を出してくれて引き上げてもらったんや」っていうようなことを話してたね。

たかお
里親になろうとしてる人や、なっている人が、里親という立場に不安を持ってるのが不思議なんですよ。
里親になるからにはそれなりの覚悟があったんやろうなって思ってるから、それが「え、覚悟がないの?」っていう。

そこで不安があると、親のその不安を、絶対子どもは感じる。わざわざ子どもがマイナスになる不安を感じさせる必要ないのにって思うんですね。

里親、里子という関係が特殊な関係じゃないんだっていうのなら、気にしなかったらいい。周りがどう反応するとかっていうのは周りの判断なので、変に萎縮してしまう必要性はどこにあるんやって思うんですよ。

里親っていうものに敏感になりすぎているように見えて仕方ない。

養子がそんなに人の興味をひいてるような子どもや親やったら、それだけですごい才能やないかって思うんです。

そんなくだらんところで何を気にしてるのかって思いはずっとあるんです。
「もっと自信持ってよ。親が自信もってたら『里子という事に引目を感じることない』って子どもも思う」って思うんです。

里親と里子が特殊な関係じゃないって言うんだったら、そういう思いをずっと持っていて欲しいなって思います。

うちの親も、別にそんな特殊な関係だと思ってないだろうし、僕も自分の立場が、世間からどう言われようが関係ないっていう思いなので。
全然家族の関係がぎくしゃくすることもない。

施設にいた場合と、今の親と養子縁組した場合を考えたら、どう考えたって今の親と一緒に成長できたことがいいっていうのは明らかなんですから、それをなんでわざわざ隠す必要があるんか分からない。

引け目に感じることもないし、隠す必要もない。隠そうって思う気持ちが理解できないんですよ。隠したらみんな知りたがりますけど、隠してなかったら、普通なんですよ。

たぶん僕みたいな考えを全員が持てるとは思えないですけど、いろんな事に過敏に反応しすぎてるのがある意味滑稽すぎるんですよ。

里親や養子の大切さを社会に知ってもらおうというのなら、里親や養子自身が自分の立場を隠そうとするのはおかしいのではと思いますね。

(はーもにい第76号より)