もらった愛情のお返しをしたい


もらった愛情をいろんな人に返したい

聞き手
で、児童養護施設に就職したんやね。なんでその仕事を選んだの?

ゆりか
やっぱり父と母の姿をみて育ったからやろね。
家庭でいろんな子を育てるっていうのを知って、普通の保育園でなくて私も児童養護施設にいってみようかなって思ってた。

父や母には返せなくても、私が何か返せるものがあるのかな?と思ってました。

施設での仕事は好きだったし、子どもは懐いてくれて、手に負えない「Tちゃん」という子が私にだけ打ち解けてくれたりした。
私やから分かるんかなと思い込んだりして。

でも施設のトップの人のやり方に賛成できなかった。
いろんなことが見えてきて、この先生たちはうわべだけのお父さん、お母さんなんやなって思ってました。
「私のお父さん、お母さんとは違う。この人たちといっしょにはできない」と感じたんです。

そのころ主人に出会ったから、「私は家庭に入ろう!」って考えた。

「こんなところにいたら自分じゃなくなってしまう。私は施設でなくて良かったな」ってそのとき思いましたね。
うちのお父さんやお母さんと施設の先生たちとは本当に違っていたな。「偉大さが違うわ」って思った。

兄ちゃん(一番最初の里子)がいろんな話をしてくれたんです。
「お前は本当に幸せな子やった。わしも幸せな子やった」とか「なんでお父さんとお母さんがたくさんの里子を育てるようになったかというと、僕らがきっかけなんやで」とかね。

お父さんはそういう風にしてたくさんの子をみてきたんやなって、教えてくれた。

聞き手
その人が実子のお兄さん(里親宅の長男)と同級生で、(その人の)家庭が崩壊したので、親身になってお世話をするようになって里親が始まったのね。
同じ状況で話せる人がいるということはいいことかな?

ゆりか
兄たちの子どもたちは、私がおじいちゃんとおばあちゃんの子じゃないとうすうすは分かっている。

兄ちゃんの子どもは、私とお父さんは同じなんやなって分かっている。
兄ちゃんは、「お父さんは、おじいちゃんとおばあちゃんに育ててもらったんや」って言い聞かせているから。

聞き手
仕事に失望したときに夫に出会ったのね。きっかけは?

ゆりか
同期で就職した人が4人いたのね。私は施設の中で住み込みだったから町にでるっていうことがなかった。
ちょうど働いている児童養護施設の近くに飲食店があって、よくそこにいってしゃべっていたんです。

そこに主人たちのグループが来ていて、グループ交際しようってことになって。
そのうち3人が結婚したの。おもしろいでしょ。

私は18歳か19歳でそんなこと・・って言ってたけど、残ったもの同士が夫と私で。後に、私たちも結婚したんです。

聞き手 どこが良かったの?

ゆりか
早く家庭に入りたかったんやろうね。早く家庭に入って、子どもを持ちたいなぁって思ってた。
だから何にも知らずにすぐ結婚したんです。私が20歳で彼は27歳でした。

父と母は主人と両親に会って「ええ人や。こんないい人にもらわれるのか、がんばれよ」って送り出してくれた。

兄は「お前は思い込んだらすっと行動するからこわいこわい」って言いながら、「いい人とめぐりあえたなあ」って言ってくれた。

今、こんな風にして生活しているのが夢みたい。
みんな、「遊びもせんと早く結婚して」と言うけれど、私は楽しい。不思議とみんなに可愛がってもらって。

聞き手
結婚の時は向こうの反対はなかったの?

ゆりか
両親の反対はなかった。親戚が多かったんですよ。
おじいちゃんのきょうだいが7人いて、「そんなわからん子あかん」って言った人が何人かいたらしい。

母屋の和室で披露宴したんです。そこへ父と母が来て、父が、また演説したんです。

私はそのとき初めておばちゃんたちに会ったんやけど、父の話を聞いて「この子やったらええわ」って言って、ころっと。態度が変わった。

聞き手
お父さんは何を話してくれたの?

ゆりか
「この子には頑張れる力がある。そういう風に育ててきた。恥ずかしい子には育ててない。だからこれからの生活を見てやってください。きょうだいがたくさんおるんや。この子はうちから嫁に行って、里帰りをさせます」って言ってくれた。

「家へ帰れるんや~」と思ってもう嬉しくて(涙)。

「一生懸命何でもすると思うから、見てやってください。恥ずかしくない子に育てています」って言ってくれて。

主人の母がね、「お父さんは”ゆりか、ゆりか”ってすぐ呼んで、私は”ゆりかさん”と呼んでいるのに。まだ、嫁にきたばっかりで呼び捨てにしたらあかん」って言ったら、お父さんが「もううちの娘やないか」って言うたんだって。

それもすごーく嬉しかった。お父さんがそんな風に思ってくれていたんだと思ってね。

聞き手
みんなにかわいがられる素質があるんやね。

ゆりか
だから誰かの役に立たないとあかん、と思っている。PTAや学校でもそうやし。

自分が愛情をいっぱいもらったから、自分ができることは何でもしないとあかんなって思う。

ヘルパー仲間の人が、「なんであんたはそんなに尽くすんや」って言うんです。
「尽くしてないよ。自分ができることしているだけ」って話すんだけどね。

それだけ私は愛情をいっぱいもらってきているから、誰かに返したいっていう思いがある。